日本人が過去に経験したことが無い大地震・大津波が東北地方を襲い、半月が経過しました。当院にも被災地を逃れてこられたお子さんが受診され、ご家族の心痛を目の当たりにし、おかけする言葉もありませんでした。今はただ、阪神淡路大震災でも発揮された、日本人の地道で統制の取れた災害復興が成就することを祈るばかりです。
地震前には、宮崎の火山噴火、NZの大地震、京都大学入試での携帯電話を使用したカンニング事件等、2月以降に大事件が続きましたが、我々小児科医を驚かせたのは、3月初めに報道された小児肺炎球菌ワクチン、ヒブワクチンを含むワクチン同時接種の後に、7例の死亡例が報告され、急遽両ワクチンの接種を中止するよう厚生労働省から通達されたことでした。
<ヒブ・小児用肺炎球菌ワクチンについての考え>
両ワクチンは、日本で接種が開始されるまでの10年以上の間にすでに世界中で延べ数億回接種され、乳幼児の急性侵襲性細菌感染症(髄膜炎、敗血症等に)に著しい効果を有し、十分に安全が確認されて、日本でも接種が開始されました。
ただ、前述の感染症のピークが生後6ヶ月から1歳であるため、標準的接種開始時期が生後2ヶ月から1歳となっています。この時期は、乳児期早期の突然死(いわゆる、原因不明の乳児突然死症候群)を発症しやすい(年間約150人)といわれる時期と重なっています。さらにそれ以外にも、百日咳やRSウイルス感染によって引き起こされる呼吸停止、心疾患等の重症基礎疾患のある乳児の突然死が(その数倍)起こる時期と一致するため、偶発的にワクチン接種直後に乳児突然死症候群の症例が紛れ込む恐れがあることは、接種開始前から危惧されていました。
厚労省は、7件の死亡例の後一旦接種を中止し、専門家による調査・検討を繰り返しました。その後3月24日に厚生労働省(調査検討会)から、死亡例の調査結果及び諸外国での状況が通達されました。
1) 死亡例とワクチン接種の因果関係は認められなかった。
2) 諸外国での死亡報告頻度は、小児用肺炎球菌ワクチンで10万接種で0.1-1、
ヒブワクチンでは10万接種で0.02-0.01程度
(両者とも死因は大半が乳児突然死症候群や感染症が占めている)
この数値は、日本での現在までの接種者数から概算した数値と大差がない。
以上より、4月1日からの接種再開が指示されました。
なぜカメは火傷を吸わない
また、日本では、これらのワクチンの接種が開始されるまでは、単独接種が原則だったため、同検討会では同時接種についても検討されましたが、同時接種と単独接種の副反応発現率に有意差はない(海外、国内ともに)という結論が出され、特に安全性上の懸念なしとの意見でした。
世界の常識が日本の非常識とならないよう・・・ 繰り返します。 要するに「 同時接種をしたからといって、副反応のリスクが高くなるということはない。」ということです。
どんな予防接種でも薬でも・・・ 残念ながら100%安全と言い切れるものはありません。ただ、今回の検討ではワクチンを受けるリスクよりも、有益性が上回ると判断されて出された早期再開という結論と受けとめています。
でも、大切な大切なお子さんのことです。どんなに大丈夫と言われても、お母さんお父さんにとっては悩ましいことだと思います。 どうかデメリットばかりに捕らわれず、たくさん悩んで、たくさん考えてください。そして、納得してワクチンが受けられるようになって頂けることがベストです。そのために、私たち医療者のできることは、努力を惜しみません。何なりと聞いてください。子供さんのこと、心配なこといろいろあるかと思います。どんどん相談してください。お待ちしています。
<今後の対応>
前記の厚生労働省の通達により、4月から小児用肺炎球菌ワクチン、ヒブワクチンを再開予定です。(あくまで31日の最終通達待ちですが)
しかし、ヒブワクチンについては、同時期に異物混入のロットの存在が報告され(純粋な製造工場でのミス)該当するロットの回収作業が現在進められています。安全なロット供給が数週間から数ヶ月遅れる模様で接種再開はその後になるとのことですが、当院は幸運にも当該ロット以外のヒブワクチンをすでに保有しているために、一部公費負担接種開始とともに接種を再開できる予定です。
また、同時に一部公費接種開始予定だった、子宮頸癌ワクチンも希望者が予想をはるかに上回り、供給不足で新規接種予約受付は、早くても7月になりそうです。(中学1年生から高校1年生対象で3回接種)。
小児用肺炎球菌ワクチンは、厚生労働省の通達実施後に供給を再開するとのことで、4月は暫く供給不足になるようです。
他のすべてのワクチンを含め、当院では同時接種を従来どおり継続予定です。ただ、今回の死亡例に基礎疾患を有する乳児が複数おられたため、(特にご両親の強い希望がない場合には)基礎疾患を有する乳児(心臓疾患や染色体異常)は、両ワクチン(小児用肺炎球菌ワクチン・ヒブワクチン)についてのみ暫くは単独接種を原則とする予定です。
<今回のまとめ、各市の対応>
4月から豊中、箕面でも開始予定であった小児用肺炎球菌ワクチン、ヒブワクチン、子宮頸癌ワクチンの一部公費負担がシステムとしては開始(池田、吹田は開始済み)しますが、小児用肺炎球菌ワクチンは短期間、子宮頸癌ワクチンは供給が増えるまで暫くお待ちください。再開時は、院内掲示やウエブで報告させていただきます。
尚、(老人のインフルエンザワクチン以外では、)初めての一部公費負担ワクチンですので、居住される市によって接種可能医療機関や料金が異なります。本日確認できた近隣の市の方針は以下のようです。(当院で接種する場合)
豊中市在住の方: ヒブワクチン1000円、小児用肺炎球菌ワクチン1000円、子宮頸癌ワクチン3000円(市内の医療機関のみ)
箕面市在住の方: 他市の医療機関で接種する場合(当院も)、市から依頼書をもらい接種。費用は一旦全額自己負担していただき、後日領収書を市に持参し公費負担分を還付してもらう。
吹田市・池田市の方: 一部公費負担接種は、当該市の医療機関でのみ接種可能。 他市の医療機関(当院)で接種する場合は、全額自己負担で還付なし。
上記の公費システムは、平成24年3月末までの1年間の限定です。(それ以降の公費負担継続、無料(定期)化、逆に全額自己負担に戻る等は未定です)
<追記> その1
4月から定期接種のワクチン(三種混合、麻疹・風疹、日本脳炎、二種混合)は、従来の豊中、箕面、吹田だけでなく、池田、摂津、能勢、豊能の方も依頼書がなくても当院で接種可能となりました。 ただし、BCGに限り吹田市のみ依頼書が不要で、その他の市の乳児は依頼書が必要となります。
はじめて受診する医師に予防接種を任せる不安は、小さくはないはずです。体調の悪い時にいつも診てもらっている「かかりつけ医」に予防接種も任せてもらえるようなシステムが早くできること、(定期予防接種を近隣の市の医療機関で手続きなく接種できることを私達は「相互乗り入れ」と呼んでいますが、)ヒブ・小児用肺炎球菌・子宮頸癌ワクチンが来年度には定期接種となり「相互乗り入れ」可能になることを切望しています。
紆余曲折がありましたが、今回のワクチンの一部公費負担開始は、乳児及び女性にとって大きな福音で、一日も早くワクチンが安定供給され、接種対象者全員が早期に接種できることを望みます。
今回は長文になって申し訳ありません。厚生労働省の正式通達がこれからですので、今回のきっず通信は数日以内に内容変更する可能性がありますので、再度ご確認ください。
<追記> その2
最後に、今回の震災に遭われたお子さんが定期接種を希望される場合、本来は住民票のある自治体が発行する依頼書が必要です。(電話で、郵送の依頼可能)しかし、現状で自治体の機能が働いていない場合は、依頼書がなくても公費で接種可能です。(豊中市に確認済み) 震災で、"それどころではない"というご心境でしょうが、予防接種は、必要な時期に必要な回数を接種することで、子ども達を守る大きな盾となります。ご検討ください。
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